—今回のアルバムを制作するに当たって、使用した機材を教えていただけますか?

Ableton LiveとLogicが半々くらいで、たまにMax/MSPという感じです。あまり特別なものは使わなかったと思います。

—ソフトウェアが中心?

そうですね。ピアノとかエレピとか、楽器音のほとんどはソフトウェア音源が中心ですね。MIDIキーボードでフレーズをリアルタイムに入力していきました。いくつかサンプリングしたのも使ってはいますが、ほとんどがソフトウェアです。

—Ableton LiveとLogicの使い分けは?

曲によって、Liveで作ったのとLogicで作ったのが分かれています。なぜかっていうと、画面を二つ並べて作るのが面倒だからなんだけど(笑)、ピアノをフィーチャーしたい曲はLogicメインで作っています。あと、ネタのサンプルから作りたいときも、Logicで作りはじめたりすることが多いです。

—Max/MSPはエフェクターとして?

ほとんどエフェクターですね。サンプルを拾ってきて、グラニュラー処理*2を施したり、フィードバック・ディレイをかけたり、Beat Repeaterとして使ったり。自分でパッチを組んで、プログラムを走らせながら作っていました。「Still Life」に関しては全部Max/MSPですね。

—シーケンスも全部。

そうですね。あのアプローチは自分でも面白いと思ったので、もっとあの方向性を突き詰めたいですね。

—だいたいの制作期間は?

ええと…1年くらいかな。去年の2月〜3月くらいに作ろうって決めたはずだから。

—おととしの12月に展示をやって、年が明けてから、鈴木(康文)さんが主催するSOUNDROOMにARTEKとして出演させていただきましたよね。

そうですね。まさにその辺りの時期だったと思います。Denryoku Labelさんともたくさん付き合いができてきて、そのときに作り始めましたね。そのときはすでに、アルバム収録曲のうち3分の1くらいは完成していたんだけど、あとは一月に1曲作るっていうペースでしたね。

—CDジャケットについてお尋ねしたいんですが、このジャケット、「美女」と「グリッチ*3」の組み合わせがとても象徴的ですよね。大庭さんの好きなものを二つ並べてみたというか(笑)。

確かに(笑)。そうですね。

— でも、グリッチの要素を取り入れたジャケットっていうのも、あまり前例がないですよね。あれは大庭さんのほうから提案があったんですか?

そうですね。最初は美女のジャケットにしようって言っていたんですが、ふと、グリッチしてみてもいいんじゃないかって。確かに、「美女」と「グリッチ」って、僕の中で二大「美しいもの」なんで(笑)、デザイナーの山崎(将司)さんに無理を言って、自分の好きな画家の絵を渡したり。でも、僕はこういうのが作りたいってお願いしただけで、写真を提供してくれたヒロティ(田中ヒロタカ氏)や、山崎さんの仕事がほんとに素晴らしかったですね。何度もやり直してもらったけど(笑)。

—グリッチのプログラムは大庭さんが?

いや、あれは山崎さんが。手作業だったらすごいけど(笑)。ここ二、三ヶ月くらいでグリッチが花開きはじめたじゃないですか。

—「unsorted」の針谷周作さんが去年の暮れに「グリッチとは何か?」っていうトークイベントを主催されていましたよね。

そうそう。

—グリッチという手法自体は90年代の終わり頃からすでにありましたよね。「グリッチ・リバイバル」というには、まだ歴史が浅いですけど。

グリッチがハイ・ディフィニションになってきたから注目されてきたのかもしれませんね。単にグリッチしているだけだとあまりキレイじゃないんだけど、「グリッチHD」が可能になったのが大きいのかも(笑)。でも、今作の音のエフェクトに関しても、グリッチはかなり意識しているし…グリッチ方面でも、いろんな人を巻き込みたいですね。

—あのジャケットのモデルはどなたなんですか?

あの方はユキさんといって、僕とヒロティの共通の知り合いで、Maltine Records関連のイベントとか「Twit & Shout」なんかでよくお会いする方なんですが、モデルの人選は彼に一任したんですよ。「美女でお任せします」って(笑)。

—ポージングも意味深というか。

いくつか案があって、その中から選んだんだけど、一番「意味ありげ」なポーズの写真を選びました(笑)。あと、絵なのに不適当な表現なのかもしれないけど、とても静かな印象のある写真だったんですね。それで、この写真が一番いいかなって。