去る3月2日に自身の2ndアルバムとなる「Still Life」をリリースしたOba Masahiro。アンビエント・カルテット「ねむり」におけるバンド活動や、同人音楽ユニット「三毛猫ホームレス」での活動に加え、メディアアート制作団体「ARTEK」としてインスタレーション展示を行うなど、多岐にわたって活動を続けている彼に話を伺った。
—二年前にリリースされた前作「prot」は、ジャンルで言うとエレクトロニカというよりも、アンビエントという印象が強かったんですが、今作はビート感が強めですね。やっぱりリリース元であるDenryoku Labelのカラーを意識されたんですか?
実はそれほど意識していないんです。他の活動でやっていることが変化してきたからというのが大きいですね。当時は、主にバンドでアンビエントをやったり、フリージャズっぽいことをしていたんですが、その後、三毛猫ホームレスでの活動だったり、個人的にDJをする機会もだんだん増えてきたりして、身の回りで音楽に対する接し方が変わってきたのが大きいですね。
—クラブ・カルチャーに接触する機会が増えたということですか。
以前と比べると、その割合は増えましたね。それで、自分の作りたい音楽もビートのある音楽に変わってきたんじゃないかなと思います。
—なるほど。Denryoku Labelからリリースすることになった経緯は?
「Denryoku Label Showcase」にゲストとして呼んでいただいたときに、山本*1さんと意気投合したのがきっかけですね。
—そこからですよね。
東京を拠点に、若手のアーティストを集めてポストテクノ・ミュージックをやるっていうレーベルのスタンスとマッチしていたんです。当時、テクノ・ミュージックを作っていくつもりはあまりなかったんだけど、レーベルのカラーと合わせられるんじゃないかって思ったんですね。
—アルバムのコンセプトは?
はじめから明確に存在するわけではなかったんですが、自分の中で「ビートのある曲ばかりなんだけど、アンビエントの曲を一番中心に据えたい」という考えが何となくあったんです。なぜかというと、今はビートのある曲を作っているけど、そのベースにあるのが(自分が今までやってきた)アンビエントの音楽だから。それで、それまでにストックしていた曲の中から、アンビエントの曲をいくつか調べてみて…アルバムの中で「Still Life」という曲があるんですが、その曲をアルバムのテーマにしようと思ったんです。その曲と一緒に、横に並べて聴いてもおかしくない曲を選んで作っていこうって。
—「Still Life」という曲が起点になって、そこから派生していったんですね。
そうです。もともとストックしていた曲と、アルバムを制作するに当たって新規に書き下ろした曲の両方が収録されています。生ドラムを使った曲なんかは、意識的に外した覚えがありますね。
—電子音と楽器音のバランスがすごく取れている印象なんですが、特にアルバムを通して印象的だったのが、鍵盤楽器なんです。おそらく、ほとんどの曲にピアノやエレピが入っていると思うんですが、これは意識してのことですか?
無意識かもしれません。でも、昔からエレクトロニクスと他の楽器をいい案配でミックスしていきたいというのがずっとあったんです。最初に音楽を始めたときから、それは変わっていないと思います。それで、電子音楽を作っていて、それにプラスする要素として生楽器の演奏を取り入れたいって思ったときに、一番やりやすかったり、自分にとって親しみがあるのがピアノだった。それが理由ですね。
—「Still Life」の由来はなんでしょうか?
日本語で「静物画」という意味なんですが、例えば花や果物など、静止した物を対象に描いた絵画のことを指すんですね。それで、アルバムのタイトルを付けるときに、できるだけ立ち止まってじっくり聴いてくれるようなアルバムにしたいなっていう思いがあったんです。それとは別に、南極の氷原のど真ん中に置いてけぼりにされたような感覚をタイトルで表現しようと思ったんですが、じっくり聴いてほしいっていうのと、すごくシンプルで、何もないっていうイメージをちょうど両立する言葉が「Still Life」だったんです。
—表題曲「Still Life」はちょうど5曲目ですよね。それで、ちょうどこの曲を境にして二部構成に分けているのかなって思ったんですが。
そうですね。そういうイメージで分けました。
—曲順がよく練られているなって印象を受けたんですよ。
ちょうどパズルゲームのような感覚で組み立てましたね。アルバムの前半にクールなものや、捻りのきいたものを持ってきて、後半はわりとオーソドックスなテクノ・ミュージックや、グルーブ感が強いものを並べました。そういう風にしてみると、結構まとまりがよかったんですよ。
—特に、僕は9曲目「Ionosphere」から10曲目「Iceberg Dance」の流れが好きで。
最後のほうの構成はかなり考えましたね。今時、CDを丸ごと一枚通して聴く人はそんなに多くはないだろうと思うんですが…それでも、なるべく映画のような流れを作りたいなって思ったんです。若干、壮大なものを匂わせるような曲のあとに、八方美人的な(笑)、心の温まる曲があって、最後にエンドロールとして、ピアノの曲に持っていったらいいんじゃないかなって。だから、ここは結構考えました。
—ピアノの旋律がつながっていく瞬間に「あ、このメロディは!」っていう。
知っているメロディだと安心しますからね。なるべく安心して聞き終わってほしいなって。
—カバーをしようと思ったのは?
前にCDを出させていただいたレーベルの「Symbolic Interaction」さんのほうから、とあるファッションブランドのWebサイト用にイメージ曲を作ってほしいという依頼があって、僕以外にレーベルに所属しているアーティストの方々も一緒に参加して、ジムノペディをモチーフに曲を作ったんですよ。そのときに作った曲がもとになっているんです。
—なるほど。それで、一番最後の曲「Planetarium」に続いていくわけですが…ピアノの素材をもとに、音響的な処理をかなり大胆に加えていますね。
実はあの曲、後から処理をしたわけではなくて、ピアノを弾くのと同時にMax/MSPを走らせて、リアルタイムにエフェクトをかけながら録音したんです。そうすると、ピアノが中心なのかエフェクトが中心なのかっていうのが、どっちでもよくなってきて。両方を併用しながら曲を作っていこうっていう気持ちになったんです。それで、すごく大胆に聞こえるのかもしれないですね。ピアノを弾いているうちに、演奏のフィードバック・ループがどんどん複雑になっていって、自分でも結構盛り上がってくるんですよ(笑)。